仙台高等裁判所 昭和30年(う)51号 判決
論旨は、被告人の本件違反は当夜高野三治が葬儀祭壇に暴行し、遺体を納めた棺を下ろしたので、かかる場合棺を元の場所に安置し直すことは再度葬式を出すこととなり、二度あることは三度あると称して当地方では甚しく忌み嫌うところであるのみでなく、その翌日に予定されていた葬儀の日取りを急に変更することができなかつたので、やむを得ず当夜自己の所有地内でかつ先祖代々火葬した場所において火葬に付したものであつて、正当防衛乃至緊急避難行為である旨主張する。しかし、仮に論旨の主張する如き事実であつたとしても、被告人の右所為は急迫不正の侵害に対し自己又に他人の権利を防衛するため已むことを得ざるに出でた行為でもなければ、自己又は他人の生命、身体、自由若しくは財産に対する現在の危険を避けるため已むことを得ざるに出でた行為でもないこと明白であつて、正当防衛行為乃至緊急避難行為に該当しないこというまでもない。なお、論旨は被告人が本件捜査の段階において正当の理由があるのに故なく出頭しないと称して逮捕状を執行して二日間留置し、絶大な精神的肉体的苦痛と屈辱とを与え、本件において二重の科刑となる旨主張する。しかし、被告人が司法警察員の出頭の求めに応じなかつたことにつき所論のように正当の理由があつたとの資料は何等存しないし、また捜査段階における逮捕状による身柄拘束は刑罰の執行と同一視されるものではない。また、論旨は山内光夫の司法警察員に対する供述調書(論旨が証人としているのは誤りと認める)中「親戚が皆火葬しなくともよいと言つた」旨の供述は虚偽であり、原審が被告人の発言を許さなかつたのが不服である旨主張する。しかし、右山内光夫の供述調書には所論のような積極的な供述は存しないし、仮にその趣旨の供述をしたものであり、それが虚偽の供述であるとしても、それは本件犯罪の成否又は所論正当防衛乃至緊急避難の主張の成否には何等影響しないところであり、また原審第一回公判調書に徴すれば、原審は被告人に対し十分弁解発言の機会を与えていることが窺われるのである。論旨は理由がない。
次に、職権を以て調査するに、原判決は被告人が所轄村長の火葬の許可なく、かつ火葬場以外の施設で行つてはならないのに、自己の所有地である原判示地内で火葬した旨の事実を認定し、これに対し、許可なく火葬した点につき墓地、埋葬等に関する法律第五条第一項を、火葬場以外の施設で火葬を行つた点につき同法第四条第二項を適用した上、両者を刑法第四十五条前段の併合罪として処断している。しかし、右両者の関係は併合罪ではなく、一個の行為にして二個の罪名に触れる場合で、観念的競合として刑法第五十四条第一項前段を適用処断すべきものである。されば、原判決は法律の解釈適用を誤つたもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)